インタビュー

大学教育におけるPBLの事例 宮城大学 日原広一教授

更新日:2019/03/08


必要性が叫ばれながらも未だ各教育現場で模索が続いているキャリア教育。
このインタビューシリーズでは各教育現場でキャリア教育に取り組んでいる先生方の生の声をお届けします。今回は地域密着型PBLやキャリアインカレに取り組む宮城大学教授の日原先生のお話を伺ってきました。(取材・執筆:羽田 啓一郎)

*本記事は2019年2月時点のものです

お話を伺った方

日原 広一さん
宮城大学事業構想学群教授。ソニー株式会社、ゼネラル・エレクトリック、サントリーなどの民間企業でプロダクトデザインなどに従事。2005年から宮城大学事業構想学部の教授として着任。2017年より同学のキャリア開発室副室長。

デザイン思考を学び、ビジネスをデザインする宮城大学事業構想学群

日原ゼミのプレゼン風景


 

-まず日原先生の授業の全体像について教えてください。

宮城大学の事業構想学群では1年次は基盤教育として事業構想の概念や手法の基礎を学ぶのですが、2年生からそれぞれの専門科目に分かれていきます。私の専門領域はデザインマネジメントで、プロダクトデザイン及びグラフィックスデザインの制作技術面だけではなく、消費者との接点の持ち方や顧客の課題解決手法として広義のデザイン、いわゆる”デザインシンキング”について学生達に指導しています。
 

-デザインシンキングはこれからの社会で求められる力ですね。今後、企業からの注目も集まってくるのではないかと考えています。

うちは美大ではないのでデザイナー志望としての就職やキャリアを考えると国内の有名美大に比べると厳しい面は正直あります。ただおっしゃる通りデザインシンキングの注目度が高まる中、今後の社会で必要となる課題解決力を演習の中で育てたいと取り組んでいます。
昨今の消費者の嗜好は複雑になっているので、ただ単にパッケージを綺麗にデザインすれば売上が伸びるか、という単純なものではありません。商品のコンセプトや広告展開含めあらゆる顧客接点をしっかり設計してビジネスを行っていく必要があります。ビジュアル表現だけではなくそうしたビジネス全体をデザインしていく事を授業の中で取り組んでいます。

実学重視。地元企業からの課題に学生が立ち向かうPBL

ゼミ生がデザイン、商品化されたドルチェようかん


 

-具体的にどのような授業を行っているのでしょうか。

私の授業は実学を重視していて、地元の企業が抱える課題やオーダーを実際に学生に取り組ませて提案させています。企業の生の課題に触れ、基盤教育で学んできた手法などを活かしながら提案までつなげていく実践型のPBLです。1セメスターの中で複数案件を取り組むのでPDCAを回しながら学生の成長をサポートしています。
 

-非常に魅力的なプログラムかと思いますが、企業からのテーマをどうやって仕入れているのでしょうか。取り組ませるテーマをどう仕入れるかに課題感を持っている先生方も多いようですが。

宮城大学には地域連携センターというセクションが学内にあり、そこを通じて企業案件を紹介してもらっています。ただそれだけを頼りにするわけではありません。私も地元のセミナーや同友会などに顔を出すようにしてますし、そこで知り合った企業の方にご相談して学生が取り組む課題を設定いただいています。またデザイン系の学生ならではかと思いますが、卒業展示会をやっているので、そこに見学に来られた企業様とつながりを作ることもあります。
 

-PBLに企業はどの程度まで関わってくれるのでしょうか

それは様々ですね。キャンパスに訪問いただいて密に連携して一緒にプログラムを組んでいただく場合もありますが、テーマだけを提示いただく場合もあります。その場合は私がそのテーマに取り組む為にどのようなプロセスがありうるかを考えた上でプログラムに落とし込んでいきます。
 

-学生のアウトプットに対する企業からの評判はどうですか?

手前味噌になりますが、なかなか好評ですね(笑)。実際に商品化されることもありますしね。取り組んでいくうちにこちらが驚くくらい成長していく学生も多いです。ポイントとなるのはやはり「リアルな企業課題」である事。そのリアル感が学生を本気にさせているようです。企業からの期待が高いと学生もそれだけ熱を持って取り組みますから、やはりご一緒させていただく企業様の本気度は重要になります。企業から貴重な機会をいただき、そのプロセスの中で試行錯誤の中で良いアウトプットを出していった学生は大きく成長しますし、結果として有名企業へ就職していく実績も出ています。
 

-弊社主催のキャリアインカレにも学生を送り込んでいただきましたがその狙いは?

私の研究室の活動の中心はあくまで地域産業の創出であり、地元企業の課題解決です。ただキャリアインカレは大手のナショナルブランド(全国ブランド)の課題に取り組むことができます。大手メーカー出身である私自身が地域ブランドと接することにより気づいたこととは、全国ブランドと地域ブランドとは、それぞれに開発姿勢を変える必要があるということでした。具体的には、地域ブランド開発においては、商品価値をストレートに表現することが大切であり、全国ブランドにおいては、より不特定多数に向けた抽象化の高い作業が必要になるということです。その視点の違いを学生に体験してほしいと思っていました。またキャリアインカレはビジネスコンテスト形式となっているので他大の学生との競争も大きな刺激になるのではないかと感じました。主にその2点で、他流試合形式のPBLの一環としてキャリアインカレに参加いたしました。
 

-実際にキャリアインカレに取り組んでみていかがでしたか?

私のゼミ生中心に取り組んでもらいましたが、ワコールと自民党のテーマに取り組んだ2チームが東京で開催される準決勝大会まで進出することができました。結果は準決勝で敗退してしまいましたが、アイデア自体は優勝チームにも決して引けを取らなかったんじゃないかと思いましたね。ただ、プレゼンテーションは東京の学生はうまい。そこは課題が残りましたね。でも企業から直接フィードバックももらえましたし、本人たちも刺激になったようですよ。

PBLの評価方法は?PBLで得られる教育効果とは

卒業展示会。見学に来た企業とここでご縁が生まれる事もあると言う。


 

-PBLでは成績評価をどう行うかも難しいポイントですが、日原先生の場合はどうされていますか?

私たちは企業の課題解決がテーマなので、アウトプットでの評価ですね。課題設定やユーザーとの対話の仕方がちゃんとできているかによってアウトプットのクオリティは全然異なります。
また私たちの学群はメディアデザイン、空間デザイン、デザイン情報、情報システムといった複数の専門コースを有していますが、PBLに取り組むときは同じグループに専門が異なる複数の学生を組ませるようにしています。実際のビジネスの現場でも異なるバックグラウンドを持つ複数のプレイヤーのコラボレーションでプロジェクトは進んでいきますからね。それを授業の中でも再現している形です。成果発表の時はプレゼンボードを提出させますが、なかなか見ごたえのある作品が並びますよ。
 

-ありがとうございます。専門性を持った学生だからこそ実現できる課題解決型のPBLだなと感じました。では最後に、PBLを実施していく上での課題感を教えてもらえますか?

デザインシンキングを指導していく上での困難は当然ありますが、PBLプログラム自体への問題意識は今のところありませんね。重要なのは教えていく過程と、終わった後のフォローです。一連の経験を学生一人ひとりの中でどう学びとして位置付けていくのか。やりっぱなしで終わらせない為にも、学生に振り替えさせる必要がありますし当然ながらそこは苦労もかかります。ただ、デザインシンキングで新しい物事を生み出していくように、PBLも手法の一つにすぎません。PBLをやるとこんな効果がありますよ、という単純なものではなく、教育手法としてのPBLを使って学生に何を学ばせるのか。そこを考えて設計するのが指導員の仕事なのではないかと感じています。

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執筆者:キャリア教育ラボ編集部