キャリア教育コラム

ICT教育で教育環境・制度を一新!そのメリットとデメリットとは

更新日:2018/08/08

近年、さまざまな場面でグローバル化・情報化が叫ばれています。もちろん教育現場も例外ではなく、国内のさまざまな教育機関でインターネットやコンピューター・タブレットを取り入れたICT教育システムが整備されています。教育現場における従来の常識を大きく変えるICT教育とは、一体どのようなものでしょうか。

ICT教育とは

ICTは、「Information and Communication Technology(情報通信技術)」の略語です。IT(情報技術)とほぼ同じ意味ですが、コンピューター技術そのものをIT、コンピューター技術を医療・介護・教育分野などに活用するための技術をICTと区別することもあります。近年、多くの自治体で学校授業にICTを取り入れたICT教育が進められています。多くの学校で授業や家庭学習に使用するパソコン・電子黒板・タブレットなどが導入されており、それに伴って学校のメインコンピュータとタブレットを連動させる、学校全体で無線LANを利用できるようにするといった技術も普及しています。

 

ICT教育のメリット

ICT教育は紙の教科書や黒板をメインに使う従来型の授業に比べて視覚的・聴覚的インパクトが強く、児童・生徒の意欲や関心が高まりやすいのが特徴です。また、わからないことを調べるのにインターネットが役立つ・板書の手間が省ける・早いうちからデジタル機器に慣れることができるなどのメリットもあります。近年は授業で使う教材の量が増えて子どもたちのカバンが重くなりすぎる問題が起こっていますが、教科書の電子化が進めば重い教科書を持ち運ぶ手間も軽減されるでしょう。

ICT教育が普及すれば、生徒だけでなく教員の負担軽減にも役立つと予想されます。たとえばテストが配信式・自動採点式になれば、定期テストに伴う教員の負担が大幅に減るでしょう。また、障がいのある生徒への教育にICTを役立てる計画も進められています。文部科学省では、児童・生徒一人ひとりの障がいの状態に合わせた支援機器の開発を支援しています。

アクティブ・ラーニングとICT教育の親和性

文部科学省は、平成27年度文部科学白書において
”教育におけるICT(情報通信技術)の活用は,子供たちの学習への興味・関心を高め,分かりやすい授業や子供たちの主体的・協働的な学び(いわゆる『アクティブ・ラーニング』)を実現する上で効果的であり,確かな学力の育成に資するものです。ICTを活用することによって,一人ひとりの子供たちの能力や特性に応じた『個別学習』や,子供たちが教え合い学び合う『協働学習』の効果的な実施が可能になります” と述べています。つまりICT教育は教員から生徒へ一方的に知識を伝える従来型の授業だけでなく、これまで授業の受け手であった生徒の側から積極的に知識や意見を発信するアクティブ・ラーニングとも相性がよいといえます。
たとえば生徒が作成した資料を授業で発表するときに生徒のタブレットと教室の電子黒板を連動させると、資料の内容が電子黒板に大きく映しだされます。文字や図が見やすくなるのはもちろん、必要に応じてアニメーションや音声などを効果的に利用することで、発表を聞いている教員やほかの生徒が直感的に内容を理解しやすくなるでしょう。この他にも、まず家庭で資料・動画を見て予習し、学校の授業では予習済みの内容をもとにグループ学習や発表などを行う「反転学習」にも、ICTの活躍が期待できます。

ICT教育の事例

総務省の情報通信白書では、これまでに実施されてきたICT教育の事例を紹介しています。

 

MOOCs

大学におけるMOOCs(Massive Open Online Course)は、ネット上で誰でも無料で受けられる大規模な「開かれた講義」です。東京大学では、2013年からCoursera(オンライン上で大学の講義を受けられるWebサービス)で「宇宙物理学」と「国際政治学」を開講しています。講義は各週10分×8~10本(4週間分)のビデオで行われます。講義の後に選択式問題・演習問題・エッセイ作成などの宿題があり、これらの宿題の正答率と最終試験の結果が一定以上であれば履修証が発行されます。
「宇宙物理学」では国内だけでなく米国・インド・英国・ヨーロッパ諸国・ブラジルなど144の国・地域から約48,000人が参加登録し、うち約1,600人が終了証を獲得しています。また参加者の年齢も多岐にわたり、下は8歳から上は80歳の参加者が受講しています。MOOCsを通じて東京から遠く離れた地方都市や海外の希望者に広く受講機会が与えられたことはもちろん、東京大学についての情報を国内外に広める良いきっかけにもなっています。

 

オンライン外国語学習サービス

近年普及している社会人向けのオンライン外国語スクールも、ICT教育の一種といえるでしょう。忙しくてスクールに通う暇がなくても、パソコン・タブレットを使って自宅や出張先・旅行先から好きな時間に英会話などのレッスンを受けることができます。ネイティブの講師やマンツーマン形式のレッスンが多く、正確な発音をチェックするのにも有効です。定期的にグループで発表会を行うスクールや、通常の教材を使ったレッスンに加えて講師とのフリートークによって英語力を鍛えるスクールなど、多様なニーズに合わせたサービスが登場しています。

ICT教育の課題

教育現場に導入されてまだ日が浅いICT教育には、解決すべき課題も存在します。

 

教員の理解度

授業にICTを活用するためには、教員がICTを活用した指導のスキルを身につける必要があります。授業そのものはもちろん、情報モラルの指導力や授業以外の校務へのICT活用スキルも重要です。

文科省が実施した「教員のICT活用指導力の基準(チェックリスト)」によると、2015年度の「授業中にICTを活用して指導する能力」のチェックリストに「わりにできる」「ややできる」と回答した教員の割合は最高の佐賀県で93.6%、最低の奈良県で63.3%となっています。この結果から、ICT教育に対する教員の理解度は地域によって大きな差があることがわかります。この数値は後述するコンピューターの地域別普及度と比例していますが、地域差だけでなくICT教育に対する学校長の理解の有無、ICT教育に関する情報量、教員の忙しさなどによってもICT教育への理解度に差が生じると考えられます。

また、小さい頃からデジタル機器に囲まれていた若い教員のICT指導スキルが必ずしも高いとは限りません。現在教員として活躍している人のほとんどが、ICT教育を充分に経験しないまま教員になったためです。現役の教員が職員研修・校内研究でICTを活用したカリキュラムの組み方や生徒への教え方を学ぶのはもちろん、教員を目指している学生のためにICT教育について学ぶカリキュラムを充実させることも重要です。

 

VDT症候群

VDT症候群は、パソコン・タブレット・スマホなどのディスプレイを長時間見ることで起こるさまざまな症状の総称です。疲れ目・肩こり・倦怠感といった身体的症状だけでなく、イライラ・不安感・抑うつなどといった精神面への影響も懸念されます。ICT教育を進めつつVDT症候群を防ぐためには、ディスプレイを長時間見続けないよう授業時間をきちんと区切る、授業の合間にストレッチの時間を設けて疲労をほぐすなどといった対策が重要です。家庭学習でタブレットを使う場合は、長時間の連続使用をアラームで知らせるなどの対策を立てるとよいでしょう。

 

地域格差

ICT教育に対する教員の理解度以外にも、さまざまな地域格差が生じています。2017年3月現在、公立小中学校の児童・生徒が使うコンピューターの台数は最高の佐賀県で1.9人に1台、最低の奈良県で8.0人に1台となっています。また、普通教室の無線LAN整備率は最高の静岡県が63.1%に対し最低の富山県は5.7%となっています。

ただコンピューターを増やし無線LANを設置すればいいというわけではなく、一定以上のスペックも必要になります。たとえば大勢の児童・生徒が特定の教材用コンテンツを一度にダウンロードしたとき、回線がすぐにパンクしてしまってはかえって授業が進みにくくなるでしょう。

また、適切な段階を踏まず流行を取り入れたためにかえって混乱が生じた例もあります。例えば、ある自治体の学校では授業にタブレットが導入されました。ところが電子黒板が整備されていなかったためタブレットで作った資料を大きく映して発表することができず、効率的な学び合いができないという事態に陥りました。

ICT教育の地域格差を解消するためには、ただ予算をたくさん投入すればいいというわけではありません。すでにICT教育が普及している自治体の成功事例を参考にして段階的にICTを導入し、ICT教育の体系をしっかり組み立てる必要があります。

成功事例に学びつつ、段階的にICT教育を取り入れる

近年、多くの自治体でコンピューター技術を授業・家庭学習に取り入れるICT教育が進められています。ICT教育は生徒側から積極的に知識・意見を発信するアクティブ・ラーニングとも相性がよく、教員から生徒へ一方向的に知識を伝える従来型の教育システムを大きく変えることが期待されています。

ICT教育は大学の公開授業やオンライン外国語学習などにも広く活用されていますが、教員のICT指導スキルや地域格差など解決すべき課題も残されています。もの珍しさや「流行しているから」とICT教育に飛びつく前にまず教員・学校関係者が充分なICT指導スキルを身につけ、ICT教育成功事例からヒントを得つつ教育体系を強固なものにすることが重要です。

【参考】
平成27年度文部科学白書 ICTの活用の推進」文部科学省

平成26年度情報通信白書 ICTがもたらす世界規模でのパラダイムシフト」総務省

平成27年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)」文部科学省

PBL/アクティブラーニング実践BOOK PBL/アクティブラーニング実践BOOK
     

執筆者:キャリア教育ラボ編集部