キャリア教育コラム

大学におけるキャリア教育の在り方と取り組み

更新日:2018/05/29

「キャリア教育」という言葉を最近教育現場でよく耳にすることがありますが、具体的にどのような教育なのかご存知ですか。実は、日本では今から19年前の1999年に文部科学省中央教育審議会がキャリア教育実施の提唱をし、本格的に進められてきました。そして、時代と共にキャリア教育に求められる内容も変化していき、様々な方法で教育現場に導入・実践されてきました。キャリア教育は、中等教育・高等教育において子供が成長していく過程で発達の段階に合わせて実施されていくものです。ここでは高等教育、とりわけ大学におけるキャリア教育のあり方について、事例を交えてわかりやすく説明します。

 

大学のキャリア教育

1.大学生のためのキャリア教育とは?

国が中心となって進めているキャリア教育ですが、この教育は2つの観点より成り立っています。1つ目は、「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」というキャリア教育そのものの観点です。そして2つ目は、「一定又は特定の職業に従事するために必要な知識、技能、能力や態度を育てる教育」の職業教育の観点です。キャリア教育は、これら2つの教育観点をもとに進められることで、キャリア形成の支援機能が充実すると考えられています。

 

PBLとは

 

そして、文部科学省が定めているところによれば、「大学でのキャリア教育は専門学部や大学院研究科などの専門課程において、講義と実習を組み合わせたキャリア学習の展開が今後必要である」としています。このように定められている背景には、これまでに進められてきた大学におけるキャリア教育と関係しています。今までのキャリア教育は、全学共通科目や教養科目として授業やインターンシップが実施されてきました。しかし、これは大学で学ぶ専門性を生かしたものではありませんでした。そこで、文部科学省は大学のキャリア教育における専門性を高めるために、「大学の教育課程自体にキャリア教育の観点を加える必要がある」としたのです。

 

キャリア教育科目とは

現在、大学ごとのキャリア教育は学生が学ぶ科目の一つとして行われています。そして、科目として導入するにあたり単位認定などが必要になるので、「大学の正規の教育課程に組み込まれ、単位化され、学生のキャリア形成支援のための科目」と定義されたものを「キャリア教育科目」としています。しかしながら、キャリア教育科目の具体的な科目名やカリキュラム名は大学ごとに異なり、「キャリアデザイン入門」「キャリア形成論」「企業と社会のルール」などといった科目名で設置されたりしています。

 

文部科学省がキャリア教育を義務化?

文部科学省

 

冒頭で国がキャリア教育を本格的に推し進めてきたのは1999年だと述べましたが、2009年には文部科学省が大学教育の質の保証と学生支援充実の観点より、職業指導(キャリアガイダンス)の実施を法令上に明確化することを提言しました。この提言により、キャリアガイダンスは大学設置基準に位置付けられたことになりました。

 

そして、社会的、職業的自立に関する指導として「大学は、学生が卒業後自らの資質及び能力を発揮し、社会的及び職業的自立を図ることができるよう、その教育研究上の目的を踏まえ、教育課程及び厚生補導を通じて、必要な指導又は支援を図るものとする。」と大学設置基準に設けました。この基準が設置された背景にはいくつか理由はありますが、とりわけ現在の厳しい雇用情勢や社会が求めている学生の資質能力を育てる必要性があることが強く関係しています。また、大学のキャリア教育には就職支援だけでなく、社会的・職業的自立のために必要な資質能力の獲得を促す取り組みについても期待されています。

2.各大学のキャリア教育への取組み事例

ここまでキャリア教育が進められてきた経緯や、大学のキャリア教育に必要とされていることなどについて説明してきましたが、大学・大学院の教育現場ではどのようにキャリア教育が導入・実践されているのでしょうか。大学・大学院での取り組み事例をいくつかご紹介します。

 

法政大学の場合

法政大学

法政大学では、「キャリア」というものについて職業を含めた「人の生涯・生き方」と捉えて、2003年に日本で初めて「キャリアデザイン学部」を設置しました。キャリアデザイン学部では「自ら学び、考え、行動できる自立・自律的な人材を育て、同時に自律・自立的な生き方を求めている人たちを支援できる「人の専門家」を育てることを目標としています。

授業では、少人数制のアクティブラーニングを全ての学年で取り入れ、例えば、1年生では「基礎ゼミ」という授業を設け20名程度の少人数制のクラス授業を通して大学での学びの基本姿勢とリテラシーを身につけます。アクティブラーニングの授業では、教員は学生の議論の「見守り人」のような役割を果たし、ディスカッションの方向性がはっきりしない時にヒントやアドバイスを出す役に徹します。また、2年生以降は全員が「体験型選択必修科目」を履修し、企業、NPO、地方公共団体などへインターンシップを行い「キャリア体験学習」を経験します。

 

産業能率大学の場合

「いかんなく力を発揮し、社会で活躍できる実践力と人間力を備えた人材の育成」を教育の重要なテーマとして掲げている産業能率大学では、人間力を高めるために「真剣に取り組む力」「実行する力」「深く学ぶ力」の養成に力を入れています。産業能率大学のキャリア教育についての特徴としては、「キャリアデザイン科目」を正規の科目として設け、1年生から4年生の間に「キャリア設計科目」を体系的に配置し、就職に向けた準備を支援するような仕組みをつくっている点です。

 

具体的には、次のような流れでキャリア教育は進められています。
①1年次「働くとは?」というテーマで働く意味や自分の将来について考える。
②2年次「職種研究」「業界研究」を学び、「やりたいこと」「行きたい業界」を思い描く。(インターンシップへも参加。)
③3〜4年次「企業研究」「就職対策」を通して、就職先の絞り込みと合格対策を練る。
特に、キャリア設計と業界研究を目的とした授業では、ディベートを通して業界・会社を調査、分析する習慣を身につけていきます。業界の発展的要素と不安要素それぞれをリサーチするチームに分かれて議論を戦わせることにより、広い視野と多角的な視点で企業と業界を研究します。

 

昭和女子大学の場合

昭和女子大学

昭和女子大学では、全学共通の「キャリアコア科目」を設置し、4年間の大学生活の中で学年ごとに目指す目標を明確化しキャリア教育を進めています。4年間の目標は次のような流れで組み立てられています。
①1年次 就業の意義、キャリアデザインの重要性を学ぶ。
②2年次 ビジネスフィールドを知り、ロールモデルに学び、自己のキャリアデザインを描く。
③3年次 就活スキルを磨き、内定獲得に向けて行動。
④4年次 卒業後の進路を確定し、目標をもって社会に巣立つ。
このキャリアコア科目には女子大ということもあり、「女性とキャリア形成」や「女性の生き方と社会」といった女性視点で働くことについて学ぶことができる授業が設けられています。女性の活躍が期待されている日本社会のこれからについても、キャリアの視点から学ぶことができます。

 

各大学に共通する取組みとは

ここまで3つの大学についてキャリア教育の実践例をご紹介しましたが、これら3つの大学で行っているキャリア教育には共通点があります。それは、どの大学でもインターンシップ制度を導入していることです。法政大学では、2年次以降の体験型必修科目の中で企業、NPO、地方公共団体などへインターンシップとして「キャリア体験学習」を実施しています。また、産業能率大学では2年次の夏季期間中2週間、インターンシップを実施しています。(3年生で自主応募し参加する学生もいます。)そして、昭和女子大学では2・3年次を主な対象としてインターンシップに参加できるシステムがあり、一般教養科目の単位として認定しています。各大学2〜3年次にインターンシップ制度を導入することで、働くことを実際に経験し学生自身の強みと弱点の再認識や視野の拡大に役立っています。

 

大学院でも同様の取り組みを実施

「キャリア教育」の実践は、大学だけでなく大学院でも行われています。法政大学大学院では、2013年に「キャリアデザイン研究科」を設置しました。この大学院では「キャリア教育・発達プログラム」と「ビジネスキャリアプログラム」の2つの分野からなるプログラムを設けています。受講対象は高度な職業人を養成するキャリアコンサルタント、学校職員、NPOスタッフ、人事労務管理担当者など社会人を対象としており、実社会でキャリア教育・形成に携わり、社会的ニーズに応える高度な専門人材養成を目指しています。

3.インターンシップを通したキャリア教育

 

大学におけるキャリア教育の実践例の項目でも述べたように、インターンシップをキャリア教育の一環としてカリキュラムやプログラムに取り入れている大学があります。インターンシップとは何か簡単に説明すると、大学生が一定期間企業で働く「職業体験」のことです。1日~数ヶ月、長い場合は数年にわたり実際に企業へ出勤し、社会人と一緒に業務を行ったり、仕事について話を聞いたりします。企業や社会人と接することで、働くことのイメージがより膨らむことからキャリア教育の一環としてインターンシップを推奨する大学が多くあるのです。インターンシップは、キャリア教育を実施する上で学生にとって大変有益な経験になり、実際の会社での労働体験を通して学生自身の職業理解と労働観の育成に役立っています。

 

具体的にインターンシップの何がキャリア教育に寄与するのか

大学生のキャリア教育を進める上でインターンシップが大変有効であると述べましたが、ここでは具体的にどのような点がキャリア教育に寄与するのか説明します。
インターンシップでは実際の企業で職業体験を経験することで、「社会で働くのに必要なこと」について学ぶことができます。仕事で求められるスキル、コミュニケーション力、そして、ビジネスにおける人間関係構築の重要性など、大学のキャリア教育の講義だけでは学ぶことができないことをインターンシップという実体験を通して体得することができるのです。このような点において、インターンシップはキャリア教育において大きな役割を果たしていると言えるのではないでしょうか。また、インターンシップを経験することで、職業理解だけではなく、その業界についても知ることができます。このような点からも、インターンシップはキャリア教育に役立っているのです。

4.キャリア教育を学ぶワークシート

キャリア教育

 

大学でのキャリア教育を促進するために、キャリア・コンサルティングのツールやノウハウなどをもとに作成された「ワークシート」があります。このワークシートは、厚生労働省のHPより無料でダウンロード、印刷することができます。キャリア教育に関連した様々な授業で使用できるように何種類も作成されています。具体的には、社会人インタビュー集、履歴書のフォーマット、就職応募書類についてなど、キャリア教育の授業ですぐに活用できる様々な資料が掲載されています。計34本の多様なプログラムを利用して、広く様々な職業や業界を学ぶことができる授業づくりに活用してみはいかがでしょうか。

厚生労働省『キャリア教育プログラム集に付随するワークシート』はこちら

5.まとめ

今日の日本社会では、大学にこれまでのように専門的な教育を求めているだけではありません。学生一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促すことも同時に求められています。国の方針や既にキャリア教育を実施している大学の例を参考にしながら、学生の職業理解とキャリア形成の促進のため、今後より積極的にキャリア教育の実践・導入に取り組んでいっていただければと思います。

 

 

■参考
文部科学省『キャリアガイダンス(社会的・職業的自立に関する指導等)の法令上の明確化について』『キャリア教育・職業教育のあり方について
JapanBuisinessPress 児美川 孝一郎『文科省の後押しで増殖した「キャリア教育科目」
法政大学『法政大学のキャリア教育』『キャリアデザイン学研究科(市ケ谷キャンパス)
産業能率大学『キャリア教育と就職
昭和女子大学『キャリア支援センターとは
ゼロワンマガジン『インターンとは何?アルバイトとの違い・意味・目的を知ろう
厚生労働省『大学等におけるキャリア教育プログラム

PBL/アクティブラーニング実践BOOK PBL/アクティブラーニング実践BOOK
     

執筆者:キャリア教育ラボ編集部