キャリア教育コラム

PBL(課題解決型)教育 授業やプロジェクトの導入事例

更新日:2019/06/05

現在、国内の多くの大学でPBL(課題解決型学習)が実践されています。大学教育を通して身につけた知識・技能を実社会で最大限に活用するためには、大学の中だけで完結してしまう学びよりも大学の枠を超えて地域、企業や他の教育機関と密接に関わりながら学ぶことが効果的と考えられます。

 

PBLを通して学びと実務(仕事)の垣根を低くすることは、学生がキャリアビジョンを描きやすくなり、高い意欲を持って社会に羽ばたける一歩となります。またPBLを通じて大学と地域、企業の結びつきを強め、地域や企業が抱えるさまざまな問題を学生ならではの斬新な意見を活かして解決しようとするねらいもあります。

 

今回は、大学の授業や地域プロジェクトにおけるPBL導入事例について解説します。

 

PBL(Problem Based Learning)とは

 

PBL(Problem Based Learning)は「課題解決型学習」の略称で、学習者が自ら問題を見つけ出し解決に向けて行動することを重視する学習スタイルです。文部科学省で推奨されているアクティブラーニング(主体的・対話的で深い学び)のひとつとして、近年教育界で注目されています。

従来の教育現場では、教師から学習者に対する一方的な知識の流し込みが重視されてきました。しかし、こうした受動的な学習スタイルは学習者が自主的に学ぶ意欲を高めにくい、単なる公式・知識の丸暗記ばかりになってしまい応用力が伸びにくいなどのデメリットがあります。

 

一方、PBLには学習者が興味を持ちやすいよう身近な題材を課題として使用する、学習者同士で協力して問題解決を行い教師は学習者の学びを助けるサポーター役にとどまる、定まった答えがない課題を解決するなどの特徴があります。

PBLの基本的な流れとして、まず教師(チューター)が特定のシナリオに基づく事例を学習者に提示します。学習者は提示された事例の中から課題を探し出し、グループディスカッション・文献調査・ヒアリングなどを行って課題の解決方法を模索します。

 

グループ内で意見交換を重ねながら意見をまとめ、レポート形式やプレゼンテーション形式で学習成果を発表します。最後にプレゼンテーションの聞き手や教師から発表内容に関するフィードバックを受け、今後の学びに活用します。

現在国内の教育機関で実施されているPBL学習の多くは、架空のシナリオを使って授業を進めるシナリオ形式となっています。この他、大学の理系学部などでは地域や企業といった学外での現場体験から課題を発見するインターンシップ形式のPBLも実施されています。

大学でのPBL教育

未来を担う若者たちが社会で十分に力を発揮し、情報化・グローバル化などによってめまぐるしく変化する社会の中でうまく生き抜くためには、学校教育を通じて産業界で求められるさまざまな資質や生き方・働き方に関するビジョンを十分に身につけることが重要です。

 

大学では、PBLをはじめとした能動的学習の導入・推進が進んでいます。高等教育機関におけるPBL授業は地域・社会生活に直結した実践的な内容が多く、企業・地方自治体から講師を招く大学やインターンシップ型授業を行う大学も少なくありません。

 

次項では、国内の大学で実践されているPBL授業の例について解説します。

三重大学

 

三重大学は「感じる力」「考える力」「生きる力」の3つの力と、それらの基盤となる「コミュニケーション力」の育成に重点を置いており、その一環としてPBL形式の授業を実施しています。

PBL導入の目的

まずは、三重大学が掲げているPBLのメリットについて解説します。PBLは成人教育にも適した能動的な学習方法であり、また身近な問題を扱うため学生が興味を持ちやすいという特徴があります。主体的な課題発見・問題解決を通してより高レベルで深い知識を身につけるとともに、その知識を脳に長くとどめやすいのもPBLのメリットです。

 

PBLは、数人のグループ単位で行います。仲間との対話・協力が欠かせないため、コミュニケーション能力や協調性・責任感が高まります。また調査活動を通して情報リテラシーを身につけるとともにさまざまな意見や情報を得て自分の考えをアップデートしつつ思考の柔軟性を高め、視野を広げるのに役立つでしょう。

 

三重大学医学部ではPBLの導入によって授業時間外の自己学習時間が増え、約半数の学生が1日平均2~3時間の自己学習を行っていることが明らかになっています。

三重大学のPBL授業の形態

三重大学では3種類のPBL授業形態を想定し、実践に取り組んでいます。

 

・基本型PBL

 

原則として教員1人が多数の学生を相手に実施します。従来型の講義と少人数制PBLの中間的な性質を持ち、PBLに不慣れな教員でも授業しやすいのが特徴です。まず教員が事例シナリオを用いて問題を提示し、学生はシナリオの中から自ら課題を見つけてグループ学習や自己学習で課題を解決します。

 

基本型PBLでは、学生が自分の知識レベルを省察しながら自己決定学習(学生自身が学びのプロセスを決める学習方式)を行います。事例の選び方や問題に費やす時間については、教員が自由に決めることができます。

 

チュートリアル型PBLは、数人ずつのグループに分かれて行います。各グループに1人または数人のチューターがつき、学習をサポートします。授業の進め方は基本型PBLと似ていますが、チュートリアル型PBLではPBL中心のカリキュラム構成に基づいた高度な学習目標が設定されます。

 

実践体験型PBL(Task-based Learning, Project-based Learning)では、個人単位での実践体験やグループ単位での実践プロジェクトを通して学びを深めます。十分な基礎的知識を習得した後に臨床現場などで実践体験を行い、学びを深めるための課題に取り組みます。

 

三重大学では、医学部高学年次の診療参加型臨床実習がチュートリアル型PBLに該当します。例えば医師が実際に見た症例を患者の既往歴・健診データとともに学生に示し、学生がそれらの情報をもとに実際に診断・治療計画を立てる授業などがあります。

名古屋学院大学

 

名古屋学院大学もまた、PBLに力を入れている大学のひとつですここでは、PBLを活用した地域活性化事業について解説します。

大学COC+事業とは

名古屋学院大学は、地域で活躍する人材を育てるために2013年度から文部科学省認定の「地(知)の拠点整備事業(大学COC事業)」に取り組んでいます。

 

COC(Center Of Community)の活動主旨は、自治体と連携して地域に根差した教育・研究や地域貢献に取り組む大学を支援することです。大学に多くの人材・情報・技術を集めることで地域コミュニティの中核的存在としての機能を強め、地域が抱える課題の解決に貢献することを主なねらいとしています。

 

名古屋学院大学は、「地域商業」「歴史産業」「減災福祉」の3つのまちづくりアプローチを通して名古屋市・瀬戸市の活力を取り戻し、「地域の質」の向上を目指しています。その一環として全学生向け教養科目に「地域理解」分野を設け、専攻の枠を超えて地域の現場における調査・分析・提案を重視した教育を実施しています。

 

定められた講義科目(座学)と演習科目の単位を取得すると、「初級まちづくりマイスター」として認定されます。初級まちづくりマイスターはそれぞれのまちづくり分野ごとに認定され、まちづくりに関する一定の学修課程を修了したことを証明するとともに後述する「上級まちづくりマイスター」の認定条件にもなります。

 

2016年には、新たに就業を前提としたCOC+(プラス)事業を開始しました。連携大学や企業・自治体などと協力して学生と地元企業の関わりを強化し、地元企業のニーズに沿った人材育成に注力することで、若者の地元定着を促すねらいがあります。また、産官学共同研究を通じて産業振興や雇用機会創出に取り組んでいます。

 

事業の一環として実施されている「観光地域づくり人材育成プログラム」は、地域と大学が共同で人材育成を行うことで地域における就業定着を促します。名古屋学院大学はCOC+事業「岐阜でステップ×岐阜にプラス 地域志向産業リーダーの協働育成」に参加しており、夏季には飛騨高山で「上級まちづくり演習」を実施しています。

 

国内外の観光客でにぎわう飛騨高山での実習は、特に観光産業分野への就職において大きな強みになります。地域の代表企業の訪問や観光産業分野(旅館、タクシー会社など)でのインターンシップを通して地域・企業が抱える課題解決に取り組むことで地域への理解を深め、社会人としての基礎的なスキルを高めるのに役立ちます。

 

上級まちづくり演習の単位を取得し、さらに関連する外部資格(ボランティアコーディネーション力検定3級、災害ボランティアコーディネーター養成講座修了など)を取得することで、上級まちづくりマイスターとして認定されます。

 

認定条件として外部資格を用いることでまちづくりマイスター制度の客観性や信頼性を高め、認定保持者が地域活性化に役立つ深い知識を持つことをアピールしやすくなります。

5つの力とPBL

COC+事業では、広い視野から客観的に物事を見つめる力(俯瞰力)・目的達成のために他者と協力して行動する力(駆動力・共同推進力)・課題の原因を究明し最適な手段をもって解決する力(課題解決力)・地域に対する理解を深め地域貢献への意欲を高める力(地域志向力)の育成に重点を置いたプログラムを実施しています。

 

これらの力はPBLを通じて学習者が身につけるべき能力とも共通しており、COC+事業においてPBLが重要な役割を果たしていることがわかります。

学生も地域社会も大きなメリットを得られるPBL

 

PBLで地域・企業と密接にかかわる課題を扱うことで、学生たちの学習意欲や地域社会への関心を高めることに役立ちます。また同時に課題解決力・コミュニケーション能力・チームワーク力などを育てることで、社会人としての即戦力を伸ばす効果が期待されています。

 

インターンシップ型PBLでは、企業・団体などの企画開発に関わる体験や現場のリアルな声を通して実践的な知識・技能を身につけることができます。学生が直接地域・社会に貢献し達成感を得ることで自己肯定感を高め、今後の学習や就職活動のヒントを得て生き方・働き方に関する明確なビジョンを描く助けとなるでしょう。またPBLを通じて地域への愛着を高めることで若い世代の地域への定着を促し、大きな社会問題となっている地方の過疎化を食い止める効果も期待されています。

 

■参考:
・三重大学版 PBL実践マニュアル
実践体験型PBL(Task-based Learning, Project-based Learning)
・名古屋学院大学
大学COC+事業
COC+事業概要

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執筆者:キャリア教育ラボ編集部