キャリア教育コラム

HRtechで変わる企業の採用方式

更新日:2019/06/05

EDtech(教育+テクノロジー)やFintech(金融+テクノロジー)に加え、人材開発・教育分野にも最先端技術が普及しつつあります。HRtech(人事+テクノロジー)を企業が導入することでHR業務の効率化を図り、雇用のミスマッチを軽減して企業・働き手双方にメリットをもたらすと期待されています。

 

少子高齢化や社会のICT化に伴って、企業の採用活動もまた大きく変化すると考えられています。企業の生産性を上げて未来の社会を生き抜くためには、採用のミスマッチをできる限り減らして能力の高い人材の流出を食い止めることが必要です。

 

これからの採用現場では、求職者の肩書きや担当者の勘・経験に頼った従来の採用活動ではなく、データに基づいた公平かつ確実な採用活動が広がると考えられます。従来の新卒一括採用形式にとらわれない企業も増えてきており、これから就職を考えている学生や支援を行う教育機関にも新しい採用方式への理解と対応が求められてきます。

 

HR(Human Resources)とは

 

HR(Human Resources)を直訳すると、「人的資源」「人材」といった意味になります。日本語でHRと表現する場合、たいていは人事部や人事担当者、人材活用などを意味します。

HRには人間を単なる労働力(Work Force)ではなく企業が持つ資源と見なし、労務管理・給与管理よりもリターン(企業利益)を最大限に得るための人材戦略の策定・実行を重視するという意味合いが含まれます。

HRtechとは

HRtechはHRとTechnology(技術)を合わせた造語であり、人事・採用関連業務の効率化を図るために開発されたAI(人工知能)・クラウドサービス・ビッグデータなどの最新テクノロジーの総称です。

例えば人材の採用・育成・評価・配置などにHRtechを活用することで人事関連業務の効率を上げ、HR担当者と働き手のミスマッチを減らす効果が期待されています。また給与計算や勤怠管理などの業務を効率化することで、HR担当者の負担を減らす狙いもあります。

企業の採用はどのように変わるのか?

少子高齢化やICT普及といった社会構造の変化に合わせて、企業の採用活動もまた大きな変化が起きると予想されます。

2030年問題

 

「2030年問題」は、人口動態の変化に伴って2030年前後に起こると予想されるさまざまな社会問題の総称です。すでに多くのメディアで取り上げられ大きな話題になっていますが、国内では少子高齢化による人口減少が危険視されています。

 

総務省の発表によると2015年の総人口は1億2,709万人、うち生産年齢人口は7,629万人となっています。しかし2030年になると総人口は1億1,913万人に、生産年齢人口は6,875万人と754万人も減少すると見込まれています。一方2015年の高齢者人口(65歳以上)は3,387万人ですが、2030年には3,716万人に増加すると予想されています。これらのデータから、2030年には国内人口の1/3が高齢者となることが予想されます。

 

生産年齢人口の減少は、単なる労働力不足だけでなく消費活動の伸び悩みによるGDP(国内総生産)低下や地域格差拡大などのさまざまな問題を招きます。さらに地方の雇用減少によって生産年齢人口が今よりもさらに都市部に流出し、地方の過疎化がますます進むと懸念されています。

 

その中でAIを含むテクノロジーは未来の労働力不足を補う有効な手段とされています。労働力が減った未来の社会で企業が生き抜くためには、社員の定着率を上げ生産性を向上しなければなりません。そのため、テクノロジーなどを活用して企業の社風や求める人材像に合った求職者を確実に採用する仕組みが期待されています。

人材のマッチング

企業・働き手双方が可能性の最大化を図るため、今後ますますHRtechの活用が加速されていくと考えられます。ここでは、HRtechを使った学生の就活に役立つ人材マッチングサービスの例を紹介します。

 

2018年に登場した「社長メシ」は、学生と経営者を直接つなぐ就活アプリです。学生が経営者にご飯を奢ってもらいながらキャリアや人生について話し合い、双方の希望が一致すれば採用に進むという仕組みです。またその場で採用とならない場合も、経営者と直接会話し、自身の考え方や人柄を事前に伝えていることで企業でのその後の採用面接に通りやすくなることも多いようです。

 

食事を楽しみつつフランクに話し合うことで、かしこまった面接ではわからない学生のキャラクターや企業の社風・ビジョンを深く知ることができます。また学生・経営者がお互いの好感度を自然に上げることができ、「この企業で働きたい」「この学生を採用したい」というモチベーションを上げるのに役立ちます。

 

「Matcher」は、学生と社会人をつなぐOB訪問用マッチングアプリです。大学の先輩や教授の人脈がなくても、チャット機能を使って簡単にOB訪問のアポを取ることができます。社会人登録者は訪問を受けることを前提としているため、「知らない人にいきなりアポを取って断られたりしないか」といった心配は不要です。

 

もし希望する企業のOBがいなくても、「この人にこんな話を聞きたい」という動機で訪問相手を選ぶことができます。また、OB側から「就活相談に乗るので、流行りのお店を教えてほしい」といった交換条件が出されることもあります。

 

採用担当者とは違った視点から企業の社風や社会人としての在り方、そして自分の強み・弱みなどを知ることができ、志望動機や自己PRに必要な情報を得るのに役立つでしょう。

 

これまでの採用の仕組み

 

これまでの国内の採用現場では、求職者の学歴や選考(エントリーシートや面接など)の結果、そして人事担当者個人の経験・勘が重視されてきました。しかし、こうした基準ばかりを重視した結果雇用のミスマッチに悩まされる企業が少なくありません。例えば学歴・資格ばかりを重視し社風に合わない求職者やスキル不足の求職者を採用してしまったり、逆に能力の高い人材を見逃したりしてしまうことがあります。

 

また、こうした採用方法が一般的であると求職者側も「エントリーシートを上手に書くには」「面接官に好印象を与えて面接を突破する方法」といった表面的なテクニックばかりに気を取られやすくなり、その人本来の能力やポテンシャルをうまくアピールしにくくなることもしばしば起こります。そして、その結果就職・転職活動をうまく進められず、必要以上に多くの時間とお金を費やしてしまうことがあります。また働き始めてから「こんなはずじゃなかった」とモチベーションを落としたり、理想の働き方を求めて職を転々としたりする人も少なくありません。

HRtechを活用した採用の仕組み

 

HRtechを採用活動に用いることで、データに裏付けされた確実な採用活動を行いつつHR担当者の負担の軽減も期待されています。企業・働き手双方のミスマッチを解消することで労働環境が改善され、企業の生産性向上に役立つでしょう。

組織戦略に基づいた採用活動

例えば採用活動の関連業務が特定の担当者ばかりに偏ったり、採用方針に関して長期間見直しが行われなかったりすると、似たような人ばかり採用してしまうことがあります。また、ひとつの企業に長期間所属していると企業が抱えている問題が「当たり前」になってしまい客観的に判断できなくなることもあります。こうした事態を放置すると、いずれ企業としての成長が止まってしまうでしょう。

 

HRTechを用いて組織をデータ化・見える化することで、企業の強み・弱みや現在抱えている問題を客観的に把握しやすくなります。その結果「若手社員の育成にもっと力を入れるべき」「新規顧客を増やすため、営業面を強化する必要がある」というふうにどの分野にどんな人材を採用すべきか判断しやすくなり、本当に必要とされる人材にアプローチがしやすくなります。

人事判断の自動化

これまで人事担当者の経験や勘で行われてきた業務を自動化することで、採用活動を公平かつ効率よく進めることができます。

 

例えば、大手企業の採用活動ではエントリーシートは合格したものの面接で不合格になってしまう求職者が少なくありません。しかしエントリーシートの段階でAIを用いてより精密な選考を行うことで、面接にかかる企業側の手間を省くことができます。

 

具体的にいうと、エントリーシートの合格基準を厳しくしたり、エントリーシートの内容や筆跡から求職者の性格を分析し、ひとりひとりの性格に合わせて面接での質問事項を柔軟に変えることで、求職者の本質を見抜きやすくするなどが挙げられます。

 

またAIを用いた選考活動は、企業側だけでなく求職者側にとってもメリットがあると考えられます。例えば、就職活動で同じ不合格になるなら、面接に進んでから不合格になるよりエントリーシートの段階で不合格になる方がその企業にかける時間も短縮できの無駄や不合格となったことによる精神的ダメージが少なく済むでしょう。

 

近年は、人材紹介サービスを利用して採用の負担を減らす企業が増えています。しかし、複数の人材紹介サービスを使うことでかえって情報管理や事務処理に手間がかかるケースもあります。HRTechを用いて採用にまつわるさまざまな形式のデータを一括管理することで、担当者の負担の軽減も期待されます。

HRtechの普及を受けて、教育はどのように変わるべきか

 

HRtechの普及によって、企業の採用現場では求職者ひとりひとりの人間性や能力を示す明確なデータが重視されるようになると予想されます。こうした採用活動の変化に合わせて、教育現場における就活指導の在り方についても見直しが必要になってくるでしょう。

 

新卒学生が就活する場合、エントリーシートや面接対策ばかりにこだわってしまうことがあります。しかし、小手先のテクニックだけに注力することは雇用ミスマッチを招く一因となります。今後AIやビッグデータによる採用システムが普及すれば、こうしたテクニックではなく、学生時代に発表した論文や、活動記録、日々の授業の成績、プライベートな活動のポートフォリオなど、より個人の力が重要視されてきます。

 

未来の社会人たちがポテンシャルを発揮して社会で活躍のチャンスを増やすためには、やはり「生きる力」の習得が鍵となります。社会で求められる能力を確実に身につけることで学生ひとりひとりの能力を示すビッグデータが蓄積され、採用活動に役立つことが期待されます。

 

企業・社会で活躍するための学びに関しては、以下の記事もよい参考になるでしょう。

「大学教育におけるPBLの事例 立命館大学 前田信彦教授」

 

■参考

総務省「人口減少社会の到来とその処方箋」
国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)報告書」
「社長メシ」
「Matcher」

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執筆者:キャリア教育ラボ編集部