キャリア教育コラム

リカレント教育を理解・活用し、生涯を通したスキルアップを

更新日:2019/04/17

リカレント教育という言葉を聞いたことがありますか?リカレント(recurrent)とは「循環する、繰り返し生じる」という意味があり、リカレント教育は学校教育を終えた人が再び学ぶことを指しています。

 

海外とくに北欧では、社会人になった後に一旦仕事を辞めて高等教育機関で学び直してから、キャリアを再開させる人がたくさんいます。海外と比べて日本のリカレント教育環境はまだ発展途上ですが、昨今さまざまなスタイルのリカレント教育システムが整備されつつあります。大学などの社会人向けカリキュラムや公開講座だけでなく、民間企業が運営する各種スクールや通信教育などもよい例です。

 

リカレント教育でビジネスに直結した知識・技能を身につけることは、スキルアップやキャリアアップにも役立ちます。「高校を中退したので学歴に自信がない」「出産・育児で長いブランクがある」などの理由でキャリアをあきらめていた人も、リカレント教育を正しく理解し実践することで新たな道が拓ける可能性があります。

 

リカレント教育とは

 

リカレント教育はスウェーデンの経済学者ゴスタ・レーンによって提唱された概念であり、義務教育や基礎教育の修了後に教育と教育以外の活動(仕事・余暇など)を交互に行う学習システムを意味します。

 

世界各国でリカレント教育に関する研究やリカレント教育制度の整備が進められており、日本では夜間制社会人大学院や放送大学などがリカレント教育に相当します。この他、スポーツ・ボランティア・企業内教育などの活動を通して知識や技術を深めることもリカレント教育と捉えることができます。

 

生涯学習の意義

生涯学習の意義について文部科学省は、「すべての人が生涯のいつでも自由に学習機会を選んで学ぶことができ,かつ学習成果が適切に評価される生涯学習社会の実現を目指すべきである」としています。

 

また2018年に可決した改正教育基本法でも、生涯学習社会の実現に努めることが規定されています。こうした生涯学習社会の構築が必要な理由は、以下の通りです。

 

・人々が新しい知識・技術を習得し続けることで、社会や経済の変化に対応できるようになる
・社会の成熟化に伴い、心の豊かさや生きがいのための学習需要が増えている
・学歴にとらわれず、さまざまな学習の成果が適切に評価される社会をつくる

 

生涯学習社会が構築されてこれらの要素が満たされれば、社会や経済の発展・地域社会の活性化・高齢者の社会参加・青少年の健全育成・学歴社会の弊害の是正などの実現につながることが期待されます。

 

生涯学習とキャリアアップ

 

文部科学省をはじめとするさまざまな分野で、リカレント教育によるキャリアアップや他分野への挑戦を後押しする環境が整備されつつあります。

 

文部科学省

大学などの教育機関で良質なリカレント教育を実施するためには、学習者や企業・団体等のニーズを的確に把握し教育プログラムを継続的に実施する体制と、学習者が継続的に学びを深められる仕組みを整えることが重要です。

 

学習者は「現在の仕事で求められる専門性を高めスキルアップしたい」「キャリアチェンジのために新しい専門性を身につけたい」「出産・育児などで離職したのちに再就職・復職したい」などさまざまなニーズを持っています。文部科学省は、学習者の多様なニーズやライフスタイルに合わせたプログラムの構築を目指しています。

 

・学習費用の負担が少なく、職業に必要な知識・技術を短期間で学べるプログラム
・基礎的な内容も含め、職業に必要な知識・技術を体系的に学べる履修証明プログラム(約1年)
・数年単位の履修期間を通して、基礎~応用までを体系的に学べるプログラム(修士・博士課程など)

 

各プログラムを別々に運用するだけでなく、異なるプログラム同士を連携させることで学びの幅が広がることが期待されています。例えば、まず短期プログラムで知識を深めてからより高度なプログラムに進む、履修証明を学位課程の単位の一部として活用するなどの方法が考えられます。

 

リカレント教育には、異なる教育機関や企業との連携も必要と考えられています。教育機関同士が連携することで多くの情報・技術を共有でき、企業等との連携によってさまざまなサポートを受けやすくなると考えられます。

 

 

例えば企業との連携によってプログラムの作成・運用を支援してもらったり、企業で実務経験を積んだ教員を派遣してもらったりすることが可能になるでしょう。社員がリカレント教育を受けることは社内全体のスキルアップや企業の知名度アップなどに役立つので、企業側にとってもこの連携は有益なものになると期待されています。

 

日本栄養士会

日本栄養士会では、従来の生涯学習制度から生涯職能開発の考えを取り入れた生涯教育制度への移行を検討しています。生涯教育制度では、単位や認定をとる能力でなく管理栄養士・栄養士として国民のために役立てる能力の習得を目指しています。

 

生涯教育制度では学習者自身が自己評価と到達目標の決定を行い、

研修計画(Plan)の作成・実践(Do)・評価(Check)・改善と見直し(Act)を繰り返してスキル向上を目指します。各職域の初任者・中堅実務者・管理者がそれぞれの到達目標を明確にし、PDCAによる自己研鑽を繰り返すことで、「知識・技術・倫理面で信頼できる専門職である」という社会的評価を得ることを目指します。

 

日本看護協会

日本看護協会(以下「協会」)は、看護職の生涯学習やキャリアアップの支援を目的とした各種研修・認定看護師および認定看護管理者教育・学会開催・図書館運営・各種奨学金および助成金の紹介などを行っています。これらの活動は、看護研修学校(清瀬市)と神戸研修センター(神戸市)で実施されています。

 

看護の世界もまためまぐるしく変化し続けており、看護専門職として常に最善のケアを提供するためには知識・技術・態度を向上させ続ける必要があります。協会では、看護基礎教育での学習を基盤として体系的に計画された学習、学習者ひとりひとりが自律的に積み重ねる学習、研究活動を通じた学習などさまざまなスタイルの学習をサポートしています。

 

協会では雇用の質を上げワークライフバランスを推進するためのさまざまな取り組みを実施しており、多くの地域・施設でも各都道府県の協会や労働局と連携して同様の取り組みを行っています。これに伴い、生活環境に応じて働き方や職場を自由に選択する看護職が増えると考えられます。協会では看護職ひとりひとりが自らの能力・ライフスタイルに合わせて目標を設定し、目標達成に必要なスキルを得るキャリア開発を支援しています。

 

リカレント教育のメリット

 

内閣府は「平成30年度 年次経済財政報告」の中で追跡調査を用いてリカレント教育(自己啓発・学び直し)の効果を検証し、リカレント教育によってもたらされるさまざまなメリットを明らかにしています。調査は30歳以上の男女を対象として数年にわたって実施され、お互いに近い属性(年齢・性別・世帯構成・就業形態など)を持つリカレント教育学習者と非学習者の差を分析しています。

 

年収の増加

リカレント教育学習者の平均年収は学習開始後2年で9.9万円、3年で15.7万円増加しています。学習開始後すぐに結果が出るわけではないものの、根気よく学び続けることで次第に年収が増加していることがわかります。

 

就業率の上昇

調査開始時点で非就業者であったリカレント教育学習者の就業率は学習開始後1年で11.1%、3年で13.8%増加しています。年収の増加に比べて短期間で効果を実感しやすいので、なるべく早く就業したい人はリカレント教育を始めるのもよいでしょう。

 

専門性の高い職業に就きやすくなる

AIなどの技術革新に伴い、専門性の高い職業(管理的職種、情報処理技術者、専門的・技術的職業従事者など)へのニーズが高まっています。リカレント教育学習者の専門職就業率は学習開始後1年で2.8%、2年で3.7%、3年で2.4%高くなっています。リカレント教育は、定型的な仕事からのキャリアアップを目指す人にとっても強力な武器となるでしょう。

 

日本のリカレント教育

国内でも、リカレント教育を導入している大学が増えています。ここでは、3つの大学の例を紹介します。

 

日本女子大学

日本女子大学では、リカレント教育課程として「女性のための再就職支援プログラム」を実施しています。就職後進路変更や出産・育児などで離職した女性を対象として、1年間のキャリア教育を通して再就職を支援するプログラムです。

 

このプログラムでは、「再教育過程」と「再就職課程」を2本柱としています。再教育課程ではビジネスに特化した科目(英語、ITリテラシー、内部監査など)を実施し、グローバル化したビジネス界で即戦力として活躍することを目指しています。再就職課程では、独自の合同会社説明会実施や求人Webサイト運営などによって受講生・修了生の再就職を支援しています。

 

明治大学

明治大学は、大学の知的財産を社会に還元するための生涯学習拠点「リバティアカデミー」を設置しています。リバティアカデミーは現在国内4カ所でキャンパスを展開しており、誰でも受講できるオープン講座や企業からの依頼を受けて行う社員研修などを実施しています。

 

企業・団体等からの寄付を受けて運営される「寄付講座」もまた、リバティアカデミーの特色のひとつです。寄付講座では寄付元企業に関係する実務講師と大学教員によるコラボレーションプログラムが実施されており、受講者と産業・地域社会の交流の場となっています。例えば2018年度に開催された大同生命寄付講座では、中小企業の健全な経営や経営者と銀行の関係の在り方などを学ぶプログラムが開設されました。

 

大阪府立大学

大阪府立大学大学院経済学研究科は、大阪市内のサテライト教室で社会人向けカリキュラムを実施しています。各授業は平日夜間と土曜日に実施され、仕事と両立しながら2年間で修士の学位を取得することができます。また、日曜日や祝日に大学の自習室・ライブラリーなどを使って自習することもできます。

 

サテライト教室では、経営学・法学を総合的かつ学際的に学ぶことができます。経営学・法学分野では、グローバル化によって激しく変化する企業活動や組織活動を研究対象としています。ディスカッションに代表される実践的な学びや理論的研究を通じて、実践的・創造的能力を備えた専門的ビジネスパーソンの育成を目指しています。

 

リカレント教育が抱える課題に対して、わたしたちができること

すべての人がスキルアップ・キャリアアップのチャンスを増やし、人生をより豊かにする手段として、リカレント教育が注目されています。しかし、日本では普及がそれほど進んでいないのが実態です。これにはさまざまな事情によってリカレント教育を受けたくてもできない人が多いと考えられます。

 

理由の一つとして、国内の多くの企業では、社員のリカレント教育に対する理解がまだ不十分です。長時間労働者であれば学習時間を確保しづらく、学習のために退職すると再就職しにくくなるリスクもあります。また、育児・介護サポートの少なさや費用の高さからリカレント教育を受けることをためらう人も少なくありません。

 

今後リカレント教育に関する制度が充実し、教育機関と企業等の連携が進むことで、リカレント教育に対するさまざまなニーズを満たせるようになるでしょう。しかし、ただ学習環境の整備を待つだけでなくわたしたち一人ひとりがリカレント教育に対する知識・興味を深めることも大切です。リカレント教育に対するニーズや情報を学習者の立場から積極的に発信していくことで、学習環境の充実に向けた社会全体の動きを後押しできるでしょう。

 

■参考
・文部科学省
生涯学習の意義と推進体制の整備
生涯学習の観点に立ったキャリア形成支援の充実
リカレント教育の拡充に向けて
・公益社団法人 日本栄養士会「キャリアアップのための生涯教育制度
・公益社団法人 日本看護協会
生涯学習支援
継続教育の基準 ver.2
・内閣府「第2章 人生100年時代の人材と働き方(平成30年度 年次経済財政報告)
日本女子大学リカレント教育プログラム
明治大学リバティアカデミー
・大阪府立大学「社会人のための講座・リカレント教育

     

執筆者:キャリア教育ラボ編集部