キャリア教育コラム

「ラーナーセントリック」学習者中心の教育環境とは

更新日:2019/02/02

ITをはじめとする学習環境の進化によって、教育のあり方に変化が起こりつつあります。その中でも、特に「ラーナーセントリック」が注目を集めています。今回はラーナーセントリックがどのような学習方法であるか、ラーナーセントリックとPedagogy(教育学)およびAndragogy(大人の学びに対する概念)の関係、そしてラーナーセントリックと近年浸透しつつあるICT教育及び文部科学省が推し進めているアクティブラーニングの親和性の高さなどについて解説します。

ラーナーセントリックとは

特定非営利活動法人日本イーラーニングコンソシアムによると、ラーナーセントリック(Lerner Centric)は「学習者が中心となって学ぶことをコンセプトとした学習モデル」を意味しています。

文部科学省は、変化の激しいこれからの時代を生き抜くために「生きる力」を身につけることが大切であると述べています。また、生きる力を伸ばすには、確かな学力(基礎的な知識や技能を活用して自ら考え、判断し、表現することで、様々な問題に積極的に対応し解決する力)・豊かな心(自らを律しつつ他人と協力し、感動する心や思いやりを備えた豊かな人間性)・健やかな体(たくましく生きるための健康や体力)をバランスよく伸ばすことが必要とされています。

生きる力を伸ばすためには、与えられた課題を受動的に学習したり他者からの評価(テストの点など)だけを用いて自らの学習結果を判断したりするだけでは不十分です。周囲からの手厚いサポート付きの学習が当たり前になってしまうと、主体性がなく一人では何もできない大人になってしまうリスクが上がってしまいます。

ラーナーセントリックによって学生が自ら課題・目標を定めて自らのペースで学習し、学習の結果を自ら評価することに慣れれば、社会に出た後も自ら考えて行動する力が身に付きやすくなると期待されています。

PedagogyとAndragogyの違い

ラーナーセントリックは、次に解説するAndragogyと多くの共通点を持っています。ラーナーセントリックについて深く理解するなら、Pedagogy(pédəgòʊdʒi)とAndragogy(andɹəɡɒdʒi)の違いを知ることも良い手がかりになるでしょう。

Pedagogy

Pedagogyは広義では「教育学」という意味を持っており、ギリシャ語の「paidos(子ども)」と「ago(導く)」の合成語が語源とされています。まだ学習意欲や知識を持たないまっさらな状態の子どもを導くように、教育者から学習者に対して行動を起こすことで学びを促すための刺激を与え、知識を獲得させる教育の考え方がPedagogyです。

あらかじめ設定された学びの環境(学校・教室)の中に教師と生徒が存在し、教師が教育のカリキュラムに沿って生徒を指導し、生徒はそのカリキュラムに合わせて学習するといった従来型の学習スタイルは、Pedagogy的と言えます。

これまでは子どもだけでなく高校・大学教育や新入社員の研修にもPedagogy方式の教育が採用されることが多かったものの、近年になって見直しが必要だと声が上がっています。

Andragogy

Andragogyはギリシャ語の「aner(成人)」と「ago(導く)」の合成語に由来しており、おもに大人の学びに対する概念として位置づけられています。Andragogyにおいては学習者自らが何をどう学ぶか・学びの成果をどう設定するかを決定し、教育者は学習者の学びのサポートにとどまるべきとされています。

Andragogyは、アメリカの成人教育に関する理論家・ノウルズによって初めて提唱された教育法です。ノウルズによるとAndragogyは以下の4つの要素を持つ教育法であり、Pedagogyと明確に区別されるべきものとされています。

1.成人は自分たちが学ぶことについてその計画と評価に直接関わる必要がある(自己概念と学習への動機付け)。
2.(失敗も含めた)経験が学習活動の基盤を影響してくれる(経験)。
3.成人は、自分たちの職業や暮らしに直接重要と思われるようなテーマについて学ぶことに最も興味を示す(学習へのレディネス)。
4.成人の学習は、学習内容中心型ではなく、問題中心型である(学習への方向付け)。

引用「フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』アンドラゴジー」

Andragogyには、学習者が自ら学習計画や評価に関わることで主体的に学びやすくなる、子どもにはない大人ならではのさまざまな経験を学びに活かせる、学んだ内容をすぐに仕事などに活かせるので具体的な目標(昇給・昇進や仕事上の問題解決など)を描きやすいなどのメリットがあります。

近年学校教育に浸透しつつあるアクティブラーニングにも、Andragogyの手法が活用されています。人生経験や知識がまだ少ない子どもでも、主体的に学びに関わり身近かつ実用的な課題を学ぶことで学習のモチベーションを高めやすいという効果があります。

教育者中心から学習者中心への学習環境の変化

ラーナーセントリックを重視するなら、あらかじめ決まったカリキュラムをもとに多くの学習者が一斉に学ぶ従来式の教育方法だけでは教育効果を上げにくいでしょう。しかし、近年の学習環境の変化によって学習者ひとりひとりの主体的な学びが少しずつ可能になってきています。

ITによる環境の変化

以下で解説するeラーニングやEdtechのように、ITを活用した学習環境が整いつつあります。こうしたICT教育の活用は、ラーナーセントリックへの大きな近道と言えるでしょう。

eラーニング

eラーニングは、ICT端末を使った学習形態を指します。電子書籍・動画・音声などを学習に活用することで、従来のアナログ学習のさまざまな欠点をカバーすることができます。

基本的に教材データと端末があればどこでも学習できるので、授業を行う人員や場所の確保にかかるコストが軽減されます。教科書の重量化による子どもの健康被害が話題になりましたが、eラーニングの活用は重い教材を持ち運ぶ負担の軽減にも役立つでしょう。

また体調不良や用事などで授業を欠席してしまうと学びの機会が大きく失われ、場合によってはそれ以降の授業についていけなくなることもあります。自分のペースで学習しやすいeラーニングなら、そうした心配も少なくなるでしょう。

eラーニングの活用は、学習者だけでなく教育者側にもメリットがあります。テストやレポートを電子化することで採点・添削にかかる手間を省くことができ、大量のデータ管理も楽になるでしょう。

Edtech

eラーニングからもう一歩踏み込んだEdtechでは、原則としてオンライン上のリアルタイムなやりとりが重視されます。

オンライン授業では教師と生徒の双方向のやりとりが重視され、チャット機能を使って授業中に質疑応答したり生徒の反応を見て授業の進め方を微調整したりすることができます。簡単な質問であれば、教師本人ではなくAIが回答することもあります。

教師や他の生徒の気配がない環境(自宅など)で学習していると、刺激が少なく学習のモチベーションを保ちにくいことも多くあります。しかし授業を受けながら他の生徒の気配をリアルに感じられれば、自宅学習でもモチベーションを保ちやすくなります。他の生徒と教師のやりとりを見聞きすることは、新たな気付きを得るきっかけにもなるでしょう。

近年、国内外の多くの大学がMOOC(大規模公開オンライン講座)を実施しています。MOOCを活用すれば無料で、かつ上京・留学しなくても本格的な学習が可能になるため、経済的・地理的・時間的制約を気にせず学ぶことも可能です。

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文部科学省が推奨するアクティブラーニング

文部科学省は、2017年に改訂した学習指導要領の中でアクティブラーニング(主体的・対話的で深い学び)を実現するための授業改善について言及しています。

アクティブラーニングにおいては、従来のような教師から生徒への一方向的な知識の流し込みではなく生徒自らが学びに対して興味・関心を持ち目標を設定すること、教師・他の生徒・地域住民などさまざまな人との対話の中から自らの知識を深め意見を広げることなどが重視されます。

アクティブラーニングの具体例として、フィールドワークやディスカッションなどが挙げられます。決まった答えのないテーマ(例えば「地元の商店街を活気づけるにはどうすればいいか」「なぜいじめが起こるのか、いじめを防ぐにはどうすればいいか」など)について調査や話し合いを繰り返し、グループごとに意見を導き出します。

ただ課題を解いたりテストでよい点を取ったりすることだけを目的とするのではなく、学習を通して得た知識・経験を今後のさらなる学びや人生・社会にどう活かすかがアクティブラーニングの大きなポイントとなります。教師は生徒の学びのサポート役に徹し、教師視点ではなく生徒主体で学習を進めることを重視します。

これらのことから、アクティブラーニングはラーナーセントリックと非常に相性のよい学習方法であることがわかります。

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未来の教育の可能性を拡げるラーナーセントリック

教育者から学習者への一方向的な働きかけをメインとする従来型の教育方法に対して、ラーナーセントリックは学習者自らが中心となって学習する学習方法を指します。

近年の学校教育に対する価値観の変化やICT教育の浸透は、ラーナーセントリックを加速させています。しかし、だからといって従来の教育方法がすべて否定されているわけではありません。学習効果が上がりやすい方法は学習者によってさまざまであり、従来のように教師と顔を合わせながら集団(あるいは1対1)で学ぶ方法が合っている人もいます。

ラーナーセントリックは従来の学校教育や学習方法が完全に変えてしまうものではなく、学習者ひとりひとりの特性に合わせて学び方を多様化させるものと言えるでしょう。

 

【参考】
・特定非営利活動法人 日本イーラーニングコンソシアム

・文部科学省
「現行学習指導要領の基本的な考え方」

「平成29年度小・中学校新教育課程説明会(中央説明会)における文科省説明資料」

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執筆者:キャリア教育ラボ編集部