キャリア教育コラム

STEM教育とは? 理工学の修業が世界のトレンドに

更新日:2018/11/01

グローバル化やテクノロジー化がますます進む昨今、理数系や科学技術系の教育を重視するSTEM教育が国内外の教育機関でも積極的に導入されています。その一環として、日本の小学校では2020年度からプログラミング教育が義務付けられています。きたるプログラミング授業の開始準備に追われるだけでなくSTEM教育そのものについての正しい知識を身につけることで、これからの教育をもっと効率よく、そして高い意欲を持って進めるのに役立つでしょう。

米国発 STEM教育とは

STEM教育は、科学(Science)・技術(Technology)・工学(Engineering)・数学(Mathematics)を統合した教育を意味します。これからのグローバル社会・高度技術化社会を生き抜くために必要な教育モデルとして、世界各国でSTEM教育が取り入れられています。

STEM教育の発祥地である米国は高い技術力や経済力によって大国となりましたが、東西冷戦やスプートニク・ショック(1957年)をきっかけに科学教育の重要性がますます注目されるようになりました。さらに日本・ドイツ・中国・インドなど諸外国の台頭による将来の国力低下や高い技術が必要な職種への適任者不足などが危惧されたため、2000年代に入ってSTEM教育が提唱されました。

STEM教育が注目される理由

オバマ政権下(2009~2016年)になると、一般教書演説などにおいて特に重要な教育政策としてSTEM政策が取り上げられSTEM教育への認知度がますます高まりました。同政権がSTEM教育に関して掲げたおもな目標として、2021年までに初等・中等教育分野における優秀なSTEM教員を10万人増員すること、性別・人種などに関係なくあらゆる学生がSTEM教育を受けられるよう教育機会を増やすことなどが挙げられました。

質の高いSTEM教育を受けた国民が国内外で多く活躍すれば、科学技術分野・ビジネス分野において他国に大きく差をつけることができます。STEM教育は次世代を担う子どもたちの将来の選択肢を増やすだけでなく、国際的な競争力を上げるための国家戦略としても重要視されています。

日本におけるSTEM教育

 

現在、国内の多くの教育機関でICT教育(Information and Communication Technology)が浸透しつつあります。ICT教育は、たとえばインターネットやパソコン・タブレットなどを使って学習することで早いうちから機器の使い方や情報検索に慣れ、効率よく学習を進められるようになるなどのメリットがあります。またインターネット上に氾濫する情報に踊らされず必要な情報をうまく取捨選択できるようになることは、これからの情報化社会を生き抜くために欠かせない能力だと考えられています。

また、文部科学省が策定した新学習指導要領では2020年度からの小学校プログラミング教育必修化にも言及しています。プログラミングそのものを学ぶだけでなく、プログラミング的思考を身につけることでさまざまな問題解決能力を高めることが大きなねらいとなっています。同時に、プログラミング思考によって各教科での学びをより確実なものにすることも期待されています。

STEM教育の男女格差

残念ながら、日本では理工系分野における男女格差がまだ大きいと言わざるを得ません。平成29年に総務省が行った調査によると、大学などの研究本務者に占める女性比率は理学分野で14.2%、工学分野ではわずか10.6%にとどまっています。理数系分野で女性が活躍しにくい理由として「男性は理数系、女性は文系に強い」というステレオタイプ思考が根強く残っていること、理工系の研究あるいは職業が出産・育児と両立しにくいケースが多いことなどが挙げられます。

文部科学省が発表した理工系人材育成戦略では、女子学生の進路選択の参考になる身近な事例やロールモデルの提供、研究活動を主導する女性リーダーの活躍促進などを目標の一部として掲げています。

国内のSTEM教育の環境

STEM教育の浸透度を高めるため、国を挙げて学習環境を整備する施策が進められています。ここでは一例を紹介します。

スーパーサイエンスハイスクール(SSH)

スーパーサイエンスハイスクール(以下SSH)は、先進的な科学技術・理数教育を重点的に行う高校・中高一貫校を文部科学省が指定する制度です。学内だけで学びを完結させずに大学・研究機関などとの共同研究などにも積極的に取り組むことで、将来社会で活躍する科学技術系人材を育てるねらいがあります。

平成30年度は、国内の204校がSSH指定校となっています。SSH指定校になるためにはまず学校側が文部科学省に応募し、一定の審査に合格しなければなりません。SSH指定校になると、科学技術振興機構(JST)から教育・研究のための支援を受けることができます。一定年数が経つと指定期間が終了しますが、指定期間終了後もそれまでに得た研究成果やノウハウを活かして質の高いSTEM教育を続けることが可能です。

現在SSH指定校となっている茨城県立日立第一高等学校では、ある生徒が行った研究「立体視を誰でも簡単に体験できる新技術」についての特許申請が受理されました。大学や企業と連携して本格的な研究設備を使ったり、普段なかなか接する機会がない研究者からアドバイスを受けたりすることで、生徒はより専門性が高く実践的な研究をすることができます。さらに海外の研究施設に足を運んで諸外国の技術にじかに触れたり、何度も研究発表の場を設けてプレゼンテーション能力・コミュニケーション能力を高めることも可能です。

グローバルサイエンスキャンパス(GSC)

グローバルサイエンスキャンパス(以下GSC)は、大学が将来グローバルに活躍できる科学技術人材を育成するための事業です。地域内で特に能力や意欲が高い高校生を募集・選抜し、国際的活動を含む高度で体系的な理数教育プログラムの開発・実施などを支援します。大学は都道府県や政令指定都市の教育委員会などと連携してコンソーシアム(推進協議会)を組織し、地域ぐるみで生徒の才能を伸ばす取り組みを行います。

SSHと同様、GSC指定機関も一定期間科学技術振興機構(JST)からの支援を受けて教育・研究支援を行います。平成30年度は新たに東京農工大学や慶應義塾大学など6機関がGSCとして採択され、宇都宮大学・埼玉大学など15大学で講座が開かれています。受講生にとっては高校の枠組みを超えた深い学びの機会を得られるだけでなく、現役の大学生・大学院生や大学教授、そして講座によっては海外の高校生とも交流できる貴重な機会となります。

例えば東京農工大学では、国際的に活躍する科学研究者・技術者を目指す高校生のために「GIYSEプログラム(Global Innovation program for Young Scientists and Engineers)」が実施されています。このプログラムでは大学の研究・教育内容を実際に経験することができ、また科学活動や国際的コミュニケーションに必要な英語演習も行われます。

基礎的な講義・演習を体験した後は、受講者ひとりひとりが興味のあるテーマを選んで個別に課題研究テーマを進めていきます。大学の研究室や、時には海外の研究者から指導やアドバイスを受けながら研究を進め、本格的な学会発表や論文投稿を目指します。

理工系人材育成に関する産学官円卓会議

経済産業省と文部科学省は、平成27年に理工系人材育成に関する産学官円卓会議(以下「円卓会議」)を設置しました。円卓会議の設置によって能力の高い理工系人材を戦略的に育成し、現在ますます高まっている理工系人材への需要を満たし産業界におけるイノベーションを創出する狙いがあります。

円卓会議では、産業界における理工系人材へのニーズと高等教育のマッチングを高めるための専門教育の充実、博士人材の活躍促進、そして初等・中等教育の充実による理工系人材の裾野拡大の3つを実現させるための取り組みを「理工系人材育成に関する産学官行動計画」としてまとめています。これらの行動計画に関する取り組みの進捗状況を毎年度フォローアップし、必要に応じて改定・指標設定を行うことで、産学官における理工系人材育成をより確かなものとして推し進めていく予定です。

STEM教育は生きる力に繋がる

2012年に所得のある就業者1,632人(平均年齢41歳)に対して行われた神戸大学西村教授の調査では、文系学部出身者の平均年収が583万であったのに対して理系学部出身者の平均年収は681万円であるったと記載されています。また、1983年以降の大学卒業者に対して行われた別の調査では数学が得意だった人の平均年収が737万円、理科が723万円、英語が694万円、社会が660万円、国語が634万円となりました。これらの結果から、得意だった学習科目によって将来の所得年収に差が出やすいとも言えます。

数学や理科が得意になるためには、ただ暗記するだけでなく公式・法則を活かして自ら学び考える作業が欠かせません。主体的に学び考える能力を高めることができれば、必要な情報の取捨選択能力や課題発見・解決能力、つまり新学習指導要領でも触れられている「生きる力」もおのずと高まっていきます。そういった能力が仕事の場でも求められることも、所得に差が発生している一因かもしれません。

まとめ

米国で提唱されたSTEM教育は、科学・技術・工学・数学の能力を重点的に高めるための教育モデルです。国を挙げてSTEM教育を普及させ科学技術に秀でた人材が国内外で多数活躍するようになれば、科学技術分野・ビジネス分野において国力の底上げにもつながります。教育を受ける側にとっても、質の良いSTEM教育を受けることで学びへのモチベーションが上がり、将来の活躍の場が増えるよいチャンスとなります。

国内においては、男女格差などの課題も残されているもののプログラミング教育の必修化やSSH・GSCなどの施策が積極的に進められています。STEM教育に力を入れることは主体的に学び考える力を育てることにもつながり、これからの教育に欠かせないとされる「生きる力」の育成にも役立つことでしょう。

【参考】
標葉 靖子(北海道大学)「オバマ政権以降における米国STEM 教育関連予算の変化」

中島さち子(東京⼤学⼤学院数理科学研究科特任研究員)「21世紀の教育・学習」

文部科学省「新しい学習指導要領の考え方 中央教育審議会における議論から改訂そして実施へ」

文部科学省ほか「未来の学びコンソーシアム 小学校プログラミング教育必修化に向けて」

内閣府男女共同参画局「専門分野別に見た大学等の研究本務者の男女別割合(平成29年)」

文部科学省「理工系人材育成戦略(平成27年)」

次世代人材育成事業
「スーパーサイエンスハイスクールとは」

「JSTニュース2012年3月号」

「グローバルサイエンスキャンパスとは」
http://www.jst.go.jp/cpse/ssh/ssh/public/about.html
https://www.jst.go.jp/cpse/gsc/

東京農工大学「GIYSEプログラムとは」

経済産業省「「理工系人材育成に関する産学官行動計画」をとりまとめました」

西村和雄(神戸大学社会科学系教育研究府特命教授)「学習科目選択と大学卒業後の所得」

PBL/アクティブラーニング実践BOOK PBL/アクティブラーニング実践BOOK
     

執筆者:キャリア教育ラボ編集部